うつ病は関係ない、自分はうつ病にはならないだろうと思う人もいるのではないでしょうか?
実際には、元々うつ傾向がない方でも妊娠や出産をきっかけにうつ病に罹患する人も少なくはありません。
妊娠・出産は、女性にとって喜ばしいことです。
しかし、身体的にも精神的にも大きな変化があり、環境や役割も変化する事が多く、
うつ病発症のきっかけとなりやすい時期なのです。
女性に特有のうつ病の1つとして、「産後うつ病」があります。
産後うつ病とは、産褥期精神病と言われる産後に発症する精神障害の1つです。
多くは産後1ヵ月までに発症し、軽いうつ状態から精神科入院を要する重症まで幅広い病態があります。
産後うつ病になると症状が数週間から数か月間続き、日常生活に支障が出てきます。
原因としては、分娩後にみられるホルモン濃度の急激な低下や夫婦関係の問題、経済的な問題、ストレスなどがあります。
また、妊娠前からのうつ病や過去の妊娠時の産後うつ病だけでなく、家族歴も関係していると言われています。
その中でも妊娠前からうつ病であった場合は産後うつ病となりやすくなります。
妊娠中のうつ病は多く、産後うつ病の重要な危険因子の1つです。
産後うつ病に罹患した母親は、子どもや配偶者など、家族にも広い範囲で影響を及ぼし、重要な問題を有します。
産後うつ病が、子どもの社会的・情緒および行動発達や身体的発育遅延に負の影響を与えることも指摘されています。
一般的に予後は良好で、適切なケアと治療を行えば、数か月~1年で回復するとされています。
産後うつ病は産褥期精神病で最も割合が多く、日本において約10人に1人が経験するといわれています。
厚生労働省によると、2016年までの2年間で、
産後1年までに自殺した妊産婦は全国で少なくとも102人いたと報告されており、
妊産婦死亡の約3割を占め、最多となっています。
年代別では、35歳以上がほぼ半数を占め、初産も65%と半数以上を占めています。
また、多くの方が耳にしたことがあるマタニティブルーズは産後うつ病とは区別されます。
マタニティブルーズは、分娩直後から産後7~10日以内に症状がみられ、
主に2~4日を発症のピークとする一過性の情動障害とされています。
発症には分娩を契機とした急激なホルモンバランスの変化が関与していると言われますが、
合併症妊娠、胎児・新生児異常、長期入院、母子の隔離など社会心理的要因の影響もあるといわれます。
日本での発症頻度は約30%と報告されており、頭痛などの身体症状が優位にみられています。
通常は治療を行わなくても発症から数日以内に症状は完全に消失するとされていますが、
一部では長期間にわたりその症状が持続し、産後うつ病に移行する場合があるため、注意が必要となります。
産後うつ病もその他のうつ病と同じく、症状の奥深くには強い抑うつ感情がみられます。
育児に対する過度の不安、母親としての無力感、孤独感、家族との人間関係の葛藤など訴えは様々です。
しかしこれらは産褥期の女性には内在的な問題です。
その為、心身の不調に対して「よくあること」、「そのうち治ると思った」という理由で専門的サポートを求めず、
診断が遅れて重症化することが問題となっています。
そのため、うつ病のスクリーニングは遅くとも産後入院期間内に実施し、
リスクを有する場合には退院後も継続したフォローを行う事が重要です。
また産褥精神病は反復するといわれており、次の出産時に約3分の1に再発が起こるといわれています。
適切な治療を行わないと、重症化したり、再発することを繰り返します。
産後に発症しやすい産後うつ病は、妊娠中または産後早期からその兆候をみつけて、
早期の診断と治療を行う事により重症化を防ぎ、自殺や子どもへの虐待などを防いでいく必要があります。
産婦人科、地域、専門的な機関など多職種連携での、切れ目のない支援が重要です。
また、家族の疾患に対する理解を得て協力を得る事や、
育児・家事の負担軽減の為に地域の施設の活用や人的資源の活用も考慮するなど、
多面的にアプローチを行うことも必要となります。
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