妊婦2000人を対象にしたアンケート調査では、妊娠期間中の日常生活動作時に不安定感を感じる妊婦は全体の72.1%でした。
不安定感を感じる動作として多いのは、階段昇降や立ち上がりなどの抗重力・従重力動作で多く、
歩行ではあまり不安定感を感じていないという結果になっています。
歩行動作は上下方向の重心制動ではなく、水平方向への重心制動が大半であるため、
不安定感を感じにくくなっているのではないか、とされています。
しかし、妊娠すると姿勢の変化に伴い、歩容も大きく変化します。
しかし実際には不安定感を感じていないとなると、急激な環境変化に対応できないことも考えられます。
妊娠した女性の身体は大きく変化します。
身体的な変化として、胎児が大きくなるにつれて、子宮が大きくなり、腹部が前方へ突出していきます。
子宮は妊娠経過に伴い前上方へ大きくなり、それに伴い身体重心位置も前上方へ変位します。
そのため、妊婦の立位姿勢としては、身体重心の前上方化に対してバランスをとるため、体幹後傾位を取る事が多くなります。
多くの方は、骨盤前傾、胸椎後弯・腰椎前弯が増加し、股関節外転外旋位にて支持基底面を大きくし、
不安定な身体を支え、バランスをとるようになります。
また、先行研究では、妊娠中の女性は非妊娠時と比較し、体重は増加する一方で筋力が低下すると報告されています。
このように妊娠経過に伴って、体重増加や筋力の低下、姿勢の変化による身体重心位置の変化が起こり、
妊娠していない時と比較して、姿勢制御能力の低下をきたすために、多くの日常生活動作に支障がでてしまいます。
米国での転倒調査では、働いている妊婦の約25%に転倒経験があり、
65歳以上の高齢者における転倒に匹敵すると報告されています。
また、日本でも19.9%の発生率であると報告されています。
発生時期は、妊娠中期、妊娠後期での件数が多く、妊娠経過に伴い姿勢制御能力が低下しており、
小さな外乱でも容易に身体重心が安定性限界から逸脱するためと考えられています。
転倒時の動作は、歩行時の転倒が3割を占め、他は階段昇降や立ちしゃがみなどの動作で発生していると報告されています。
また、妊娠が経過するにつれ、ふらつきやつまずき、滑るような状況での転倒件数が増加しています。
妊婦の歩行の特徴として、前額面で臀部を左右にふるようなアヒル様歩行と体幹後屈位が挙げられます。
妊娠後期では、歩行速度、歩幅、歩行率が減少し、歩隔が増加します。
歩行時に左右の足を開き、歩隔を増大することで、左右方向の姿勢制御を行います。
立脚期においては、股関節屈曲、外転、足関節底屈、体幹前屈モーメントが増加するといわれています。
それにより、足関節底屈筋群、体幹前面と大腿前面を連結する筋群、
股関節外転筋群の負荷量が増加するため、上記筋群が疲労を起こしやすくなります。
長時間の歩行などにより易疲労性を引き起こし、トゥクリアランスの低下を引き起こし、転倒しやすくなります。
滑って転倒する際には、外乱刺激に対する急速な立ち直り反応とステッピングが要求され、
つまずかないようにする為には、十分なトゥクリアランスが必要となります。
妊婦では急激なステッピングが難しく、腹囲の増加により足元が見えにくいことに加えて、
トゥクリアランスの低下により滑ることやつまづきでの転倒が引き起こされると考えられています。
また、立ち上がり、しゃがみ動作においては、ふらつきによる転倒が報告されています。
大きくなった腹部のため、体幹前屈の動作が制限され、床反力作用点は後方に位置したままで立ち上がり、
しゃがみ動作を行うようになります。
体重増加に加え、前屈動作の制限により身体重心は後方に位置したままとなり、
抗重力動作を行う際に膝伸展筋群への負担が増加してしまいます。
そのため、重心の後方への急激な移動を制御できず、着座時には後方への転倒の報告も多くみられます。
必要な際には、手で支持をして動作を行うなどのアドバイスも重要です。
妊婦の転倒は、早期分娩や胎盤剥離、帝王切開での出産へと繋がる可能性もあるため、
特にお腹が大きくなる妊娠中期や後期では、注意をしなければなりません。
妊婦の身体機能の特性を理解し、転倒を予防するために、
専門家による姿勢制御課題を取り入れた運動指導を行う事も重要ではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました✨
ウーマンズヘルスケア研究会
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