産後の不調に影響及ぼす? ~会陰裂傷・会陰切開~

分娩時の母体損傷は、分娩の際に、骨産道や軟産道に生じる分娩時産道損傷の総称です。
 骨産道損傷としては、恥骨結合離解、仙腸関節や尾骨の損傷、
 軟産道損傷としては、子宮破裂、頸管裂傷、膣・会陰裂傷、膣・外陰血腫があります。
 今回は、出産時に経験することが多いと言われている膣壁・会陰裂傷、会陰切開についてお話しします。

【会陰裂傷・膣壁裂傷とは】

会陰とは、膣と肛門の間にある、長さ3~5cmの部分をいいます。
 分娩の際に、約10cmある児頭が膣壁や会陰部の組織を圧迫して引き伸ばすため、会陰部の組織(皮膚と皮下組織)も薄く引き伸ばされます。
 会陰部の組織が、分娩の際に裂けてしまうことを会陰裂傷といいます。膣の壁がさけることを膣壁裂傷といい、膣壁裂傷は会陰裂傷と同時に起こりやすいと言われています。


○会陰裂傷が起こりやすい場合
 膣や会陰の伸展不良・・・初産婦、高齢出産、若年出産
 大きな児頭・・・巨大児、胎位・胎勢の異常、回旋異常
 急速に進行する分娩・・・過強陣痛、鉗子分娩、吸引分娩


○会陰裂傷、膣壁裂傷の重症度
 裂傷はかすり傷程度の軽度から、直腸まで裂けてしまう重症まで4段階に分けられています。

・第1度会陰裂傷
 会陰皮膚のみ、膣壁粘膜表面のみに限局し、筋層には達しない裂傷
・第2度会陰裂傷
 球海綿体筋や浅会陰横筋などの会陰筋層に及ぶが、外肛門括約筋には達しない裂傷
・第3度会陰裂傷
 外肛門括約筋や直腸膣中隔に達する裂傷
・第4度会陰裂傷
 第3度裂傷に加え、肛門粘膜や直腸粘膜の損傷を伴う裂傷

分娩直後に視診にて、裂傷の部位と、どの深さまで損傷があるのかを確認します。また、直腸診にて肛門括約筋が正常に機能するのかを確認する事も大切になります。


○治療

1度裂傷は必ずしも縫合する必要はありませんが、出血がある場合には,吸収糸を用いて縫合します。
2度裂傷以上の会陰裂傷は腟壁の裂傷を伴っており、まず腟壁裂傷上端から吸収糸を用いて縫合します。死腔を残さないように直腸に注意して縫合します。
3度裂傷は、肛門括約筋が断裂しています。この筋肉が断裂すると肛門の締りが悪くなるため、断裂した筋肉をもとのように引き寄せて縫合を行う必要があります。その後は2度裂傷と同様です。
4度裂傷は直腸まで損傷しているので,その程度を確認して直腸粘膜縫合を行います。その後は2度裂傷と同じです。注意深い縫合となるため、長時間となり、大きな病院へと搬送になる事もあります。
3度、4度裂傷の術後は創部離解を防ぐために便を柔らかくしたり、食事も消化の良いものにしたり、感染症予防の抗生剤の投与など、術後管理も重要となります。

このような事態にならないように、大きな裂傷ができると予測される場合には、会陰切開を行います。


 【会陰切開とは】

会陰切開とは、胎児娩出の際、会陰および腟壁裂傷を予防し、分娩第2 期を短縮させ、母児双方にとって安全な分娩を行うことを目的に児娩出直前の会陰部に種々の切開を加えることをいい、産婦人科医が行います。
 会陰切開を行わない場合、初産婦の会陰裂傷の発生率は約57%です。なお、そのうちの約56%は第1度会陰裂傷です。そのため、必ずしも会陰切開を行うというわけではありません。

○適応
1.高度な腟・会陰裂傷の予防を目的に行う
a)高齢初産などで軟産道強靱症があり,会陰の伸展が不良な場合
b)恥骨弓が鋭角で,会陰部に児の抵抗が強くかかる場合
c)腟入口部が狭い場合
d)巨大児の分娩の場合

2.分娩第2期の短縮および児へのストレス軽減目的で行う
a)鉗子手術など,急速遂娩を行う場合
b)骨盤位胎児牽出術を行う場合
c)未熟児の分娩の場合

3.Cosmetic な創傷治癒を目的に行う

創の大小にかかわらず,自然に発生する会陰および腟壁裂傷よりも,創部が直接的で不整形にならず短時間で正確な縫合が可能であるため、瘢痕創傷治癒を目的に施行される場合もあります。
 大体、会陰切開をすると、第2度の会陰裂傷と同じくらいのレベルと言われています。


○方法
 会陰切開は、側切開法、正中側切開法、正中切開法が主に行われています。いずれも2~4cmほど医療用のはさみを用いて行います。

1. 側切開法
 後連合より2 ~ 3 cm 側方で,腟入口縁から坐骨結節の方向に切開を加える方法で,会陰の極端に狭い産婦など,肛門や直腸損傷の危険性が大と判断された場合に行われることがあります。外陰や骨盤底の筋肉群を傷つけることは少ないですが、切開創が斜めに入るため、歩行時両脚を動かす度に創に張力がかかり、炎症が持続し疼痛も強く、創傷の治癒も遅れることがあります。

2.正中側切開法
 正中切開と側切開のほぼ中央( 5 時又は7 時の位置)、又は正中切開の中央起始部から,肛門を避けて左又は右に2 ~ 3 cm 斜めに切開を加える最も多く施行されている切開法です。
 側切開と同じく、切開創が延長しても肛門括約筋は損傷を受けず第3度、4度裂傷を避けることができます。切開創が斜めであるため、創部の腫脹や疼痛は長引きやすいです。

3.正中切開法
 後連合中央部より肛門に向かって、縦方向、正中に切開を加える方法で、会陰の開大効果が優れており、またこの部位は会陰腱中心で、腱組織で構成されているため、血管・神経分布が少なく出血,疼痛が少ないといわれています。しかし、切開創に続けて裂傷が起こると、切開創の延長がそのまま3度、4度裂傷につながることから,その実施を躊躇する産科医も多いようです。

上記のようにいくつか方法はありますが、どの切開方法にするかは医師の診断によります。


○予後
 産後は、切開した部分の痛みや違和感がある場合が多く、痛みが続く期間には個人差がありますが、1週間前後では落ち着き、産後1か月程度でおさまる場合が多いようです。
 切開部の創の回復のためにも、患部を生活に保つようにしましょう。
 円座にて患部を除圧する方も多くみられますが、ドーナツ型の円座では患部がうっ血する場合もあるため、使用には注意が必要です。


このように、妊娠中はもちろん、分娩を行う際には、会陰裂傷や会陰切開などを含め、骨盤底へのダメージは避けられません。
DeLanceyによると経腟分娩者の36%に恥骨内臓筋の剥離があると報告されています。
また、Kearneyによると分娩第2期の延長は、挙筋損傷のリスクがあると報告されています。

骨盤底筋群の役割としては
内臓の支持、排尿・排便のコントロール、性的な反応、腹腔内圧の維持・生産、腰椎-骨盤帯の安定、姿勢保持などが挙げられます。
 産後に適切な処置や十分なケアを行わず、骨盤底機能に障害が残ったままだと、産後にトラブルが発生する可能性が高くなってしまいます。

産後に身体のトラブルがでると、育児をする際にも余裕がなくなってしまいます。
 産後に、ママ・赤ちゃんともに健やかに過ごす為にも、年齢を重ねてから様々な不調が出ない為にも、
 産後には十分に休息をとり、会陰部を含めた、母体のケアも十分にできることが望ましいと思います。

 

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました

 

 

 

  

ウーマンズヘルスケア研究会

 

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